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バイオフィードバックとは...

バイオフィードバックでは、からだの変化をとらえる生理指標を使って「からだの声をきき」「こころ」とからだの対話」を行います。

「バイオ」=からだの
「フィードバック」=情報を返す
という言葉の通り、普通は気づかないからだの変化を測定し、それをフィードバックすることにより、からだの状態をよく知り、心身をよりよい状態に調整することを目指す方法です。

私達のからだは動的なものです。
「いま」のからだと「過去」-例えば1時間前-のからだとは違います。「未来」-例えば1時間後-のからだはまた変化しています。

心臓は常に鼓動を繰り返していて、血液は常にからだの中を循環しています。そのために末梢血管に脈が生じ、皮膚の温度は常に変化します。汗の量は体温を調整するために刻々と変動し、胃腸は蠕動運動を行い、筋肉は緊張と弛緩を繰り返しています。そして、心理的なストレスによって、これらの動きは大きく変化します。

このように常に変化しているからだの状態をとらえる手掛かりとして、さまざまな指標が考えられますが、バイオフィードバックでは動的な変化をとらえやすい精神生理学的指標を主に用いて、それを治療的に扱います。



具体的には、
・ 筋電図 (肩こりや頭痛などに関係する、筋緊張をみる)
・ スキンコンダクタンス (精神的な緊張、動揺や安定性、情動の緊張やリラックスをみる)
・ 皮膚温 (痛みやむくみに関係する、血液循環をとらえる)
・ 容積脈派 (末梢血管の収縮・拡張から血液循環をとらえ、脈拍数をみる)
・ 呼吸 (こころとからだの接点である、呼吸のパターン・深さ・速さをみる)
・ 心電図 (血圧や動悸などに関係する、心臓のはたらきをみる)
・ 心拍変動(発汗、ほてり、ふらつき、腹痛、便秘などいろいろな症状に関係する自律神経の働きみる)
などを同時に測定します。
どれも衣服を着たままで、指先などにテープを貼るだけで簡単に計ることができ、痛くもかゆくもありません。

バイオフィードバックは、客観的な指標(=「からだとこころの道しるべ」)で確認しながら、心身を調整できるのが最大のメリットです。リアルタイムで確認することで、からだの感覚と実際の状態とのギャップを埋めて、正しい調整を目指します。

そして、もっと大事なことは、それを通して自分のからだの状態に気づくこと、すなわち「からだの声をきく」ことです。自分のからだと十分に対話し、「こころとからだの対話」を進めていきましょう。

バイオフィードバックは、からだの状態を客観的にとらえて、それを主観的な体験に戻す過程を含んでいます。主観的に体験されたものと、客観的に表示されたものが、まるで対話を行うようなイメージです。

客観的に表示されたものは、セラピストとクライエントで共有することができます。
このようなプロセスを通して、からだの声を聞き、こころの声に耳を傾けるのがバイオフィードバックです。

以上をまとめると
バイオフィードバックとは
・刻々と変化している
・今ここにあるからだの状態を捉えて
・からだの状態とその変化の過程を
・からだの持ち主に
・いまここでフィードバックし
・それを治療者と共有し
・からだの状態を知り
・からだの声を聞き
・からだを望む状態に調整したり
・気づきを深めたりする方法

...です。

ストレスプロファイル (Psychophysiological Stress Profile: PSP) とは

自律神経系など、身体の調整を行っていてストレスなどによって変化しやすい心身の調整機能を精神生理学的に調べる方法です。

ストレスに対する自律神経系などの身体の反応には、ある程度安定したプロフィールがあるとされています。PSPでは日常生活で体験するのに近いメンタルワークストレスによって、自律神経系や筋緊張などの生理的指標がどのように変化するかを調べ、その反応の仕方や自分で感じる身体の感覚との関係などを調べます。

例えば典型的には、ストレスによって、スキンコンダクタンス(情動性発汗)は上昇し、末梢の血管は収縮して皮膚温は低下し、心拍数は上昇し、額などの筋電位は上昇します。

しかしその反応の仕方が、ある指標では過剰であったり、反応が鈍かったり、ストレス前の方がかえって緊張が高かったり、ストレス後の回復が遅れたりします。また、情動性の指標は反応が高いけど、血管の反応は低いなど、指標によって反応のパターンが違ってくることもあります。そのとき、その人に特有の反応のパターンを評価するのがPSPです。

測定する指標  →バイオフィードバックで用いる指標
(1) 筋電図 (surface electromyogram: SEMG):
          筋肉の緊張弛緩をみる。身体的な緊張・リラックスの指標。
(2) 皮膚電気活動 (electrodermal activity: EDA):
          情動性発汗を反映。精神的な緊張・リラックスなどの指標。
(3) 皮膚温 (skin temperature: TEMP):
          末梢の血液循環を反映する。
(4) 容積脈波 (blood volume pulse: BVP):
          末梢血管の収縮拡張や脈拍数をみる。
(5) 呼吸 (respiration: RESP):
          呼吸のパターン、深さ、速さなどをみる。
(6) 心電図 (electrocardiogram: ECG):
          心臓の働きをみる。
 → heart rate variability: HRV: 心拍変動:
          交感神経と副交感神経の緊張やバランスを評価する。
(7) 脳波 (electroencephalogram: EEG):
          脳の機能的な状態をみる。

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手順
1)上記の信号を測定しながらしばらく安静にした後、簡単な問題を行ってもらい、その後また安静にします。過呼吸テストを加えることもあります。
2) 前後にPOMSや自覚的スコア、身体感覚増幅尺度などの質問紙を行います。
3) 自律訓練法などを行っている場合は、測定しながら引き続いて行ってもらい、そのときの変化をみます。

目的と意義
(1) 精神生理学的な評価(自律神経機能及び筋緊張の評価)。
自律神経系や筋緊張を反映する指標のストレスによる反応性を評価します。
また、自覚的な身体感覚や気分との関連性を併せて検討します。それによって、心身相関などの病態を把握する材料とします。

(2) 心身相関の気づきや理解を促す。
ストレスによる生理的指標の変化をフィードバックすることで、心身相関の理解や気づきのきっかけになります。

(3) 最適なリラクセーションの方法の選択。
いくつかあるリラクセーション法・行動医学的アプローチの中で、どれが一番合っているかを推定します。

(4) 自律訓練法・呼吸法などの行動療法の効果判定。
すでに自律訓練法や呼吸法などを行っている場合は、その際の指標の変化を調べ、効果を評価します。それをフィードバックすることで、モチベーションや理解を高めます。

(5) バイオフィードバックの為の評価。
バイオフィードバックでは、上記の指標を自分でコントロールして、心身をよりよい状態に持っていくことを目指しますが(後述)、どのようなバイオフィードバックを行うかをPSPで評価します。

(6) 心理的効果(外在化と行動変容)
PSPを各治療の節目で用いることで、治療者患者間で共有できる客観的な指標が得られ、外在化や行動変容などの心理的効果をもたらします。

心身症や機能的な身体疾患、慢性疼痛などの患者さんで、こういうケースがあります。

・感情はいろいろあるけれど、それがうまく表現できない。
・身体の緊張が高いけど、それを感じることができない。
・身体の症状が感情や情動と関連がありそうだけれど、その自覚がない。あるいは、認めたくない。

一言でいうと、精神的・身体的なエネルギーはある程度高いのですが、その高いエネルギーの向く方向がばらばらであったり、相互のコミュニケーションがうまくとれないために、統合できないという状態です。

アレキシサイミア(Alexithymia; 失感情症)アレキシソミア(Alexisomia; 失体感症)とも重なる部分がありますが、特にエネルギーは高いのに統合されず、有効に使われないという面が特徴的なケースです。精神的・身体的エネルギーが有効に使われないために、うつというわけでもないのに、疲労感が大きくなります。

このようなケースでは、ばらばらな状況に気づき、統合していくというプロセスが必要です。でも、これはそうそう簡単にできるものではありません。

一つの方法として、からだの感覚と「キャッチボール」や「対話」をするところから入るやり方があります。

からだの感じていることにまずはよく耳を傾けます(からだの声をきく)。
聞く耳を持つという姿勢がまずは大切です。「聞いてやるぞ」という姿勢ではなく、「よく耳を傾けてきく」という姿勢です。

そして、今度はからだに働きかけます。
動かしてみるのもよいし、言葉で話しかけるのでもいい。「キャッチボール」や「対話」は一方通行ではないので、やりとりを続けることが重要です。

そのような「キャッチボール」や「対話」を続けていると、何らかの気づきが生じるはずです。それをきっかけとして、自分の中にある、感情、情動、知性、身体という要素が統合されて、有効に機能するようになっていきます。

前述のように、決して簡単な過程ではありませんが、気づきが深まっていくと、少しずつ自然にすすんでいきます。ちょうど、野球やサッカーで、チームワークがうまくいかなければどんな強い選手が集まっていても勝てないけれど、チームワークやコミュニケーションがうまくいくと、選手力の総和を最大限にすることができ、勝てるようなものです。

アレキシサイミアは精神活動と情動との機能的解離が関与しているといわれています。

「(アレキシサイミアは)精神機能を行う大脳新皮質と情動回路にあたる旧脳(大脳辺縁系、視床下部等)との機能的解離が原因ともいわれる。」

「この両者の解離は、新脳の精神活動が、旧脳の生存機能を無視することとなり、またその逆の現象も起こり、身体的な疲労に調和した精神機能の静穏化がさまたげられ、過剰な活動が行われることとなる。」
(「ストレスとコーピング-ラザルス理論への招待」
 R・S・ラザルス講演、林峻一郎編・訳 より引用)

現代のストレスフルな生活では、新皮質の活動ばかりが強いられ、それに対応するべき情動の活動が抑えられてしまうという傾向があります。
その結果、心身の活動がアンバランスになり、歪みが身体症状として表れたのが、心身症などのストレス関連疾患ということになります。

具体的には
「24時間、寝ても醒めても常に考えてしまう」
という人や、
「職場での嫌なことが忘れられず、ずっと頭にある」
という人が、
感情の気づきや表現に鈍くなり、何を見ても感動できなくなったり、身体の感覚が鈍くなってきたり、他人から見られる自分と本当の自分との間に解離があるように思われたりすることがあります。

また、このような表面的なレベルにとどまらず、もっと深いレベルで感情の気づきに乏しくなることもあります。

そのような場合は、精神分析的な「防衛」としての意味があったり、ある意味適応的にそうなっている場合もあります。
すなわち、意識的か無意識的かはわかりませんが、「そうでもしなければやっておれない」という状況です。

このような機能的解離を少なくして、自分自身の「身体の声」や「心の声」を聞いていく方法の一つが、バイオフィードバックなど、からだの声をきくアプローチです。

本来身体をより適切な状態に持っていってくれるはずの自律神経が、症状の持続に関与するという状態になってしまっている場合は、意識的に自律神経のコントロールを試みることもあると、心と身体の関係-自律神経系-で述べました。

そのような具体的な方法としてリラクセーション法やバイオフィードバックなどがあります。自律神経系や筋緊張などの身体の状態をコントロールすることで、身体の状態をより適切な状態に保ち、本来のバランスを取り戻すことにつなげようというわけです。


◇リラクセーションとは◇

「リラクセーション」とは、本来は「弛緩」とか「緩和」という意味で、「緊張」に対する言葉です。つまり簡単に言えば身体や心を緩めることです。

「リラクセーション反応」(→BOOKSHELF)の著者であるハーバート・ベンソン博士は「闘争・逃走反応」に拮抗するのが「リラクセーション反応」であり、リラクセーション反応によって闘争・逃走反応を中和することができると述べています。
 
「闘争・逃走反応」というのは動物の世界での表現であって、秩序の整った?現代において「逃走」が必要という場面はそうそうありませんが、代わりに人間関係などから「緊張」を強いられる場面はよくあります。
ですから、「闘争・逃走反応」というのは、現代の生活で言えば緊張を強いられるようなときに生じる身体の反応のことと考えればよいでしょう。

例えば心拍数が増える、呼吸が浅く早くなる、瞳孔が開く、手に汗を握る、などです。これらは主には自律神経の中の、交感神経といわれるものの緊張が相対的に大きくなって起こる反応です。(交感神経と拮抗するのが副交感神経というもので、これはどちらかというと身体を休める方に作用する神経系です。)

このような身体の反応は、状況に対応する為に必要な反応であり、それ自体悪いものではありません。しかし、この緊張状態が日常的に続き、休息と比較して極端に大きかったり、休息すべきときにも緊張が続いたりするようになると歪みが生じて、いろんな身体症状や精神症状を引き起こすことがあります。

身体症状が持続した場合は心身症の状態になることもあります。精神症状としては不安障害やうつ、不眠などが代表的です。社会的な場面において過度の緊張が起こり、それがコントロールできないような状態は「社会不安障害」とか「対人緊張」と言われることもあります。そこで、過度に多くなった「緊張反応」を中和する「リラクセーション」が必要になってくるのです。


◇バランスとメリハリ

 ただ、ここで一つ注意しておかなければならないことは、「心地よい緊張」というのもあるということです。「緊張」が悪くて「リラクセーション」が良いから「リラクセーション」の方に持っていこう、という単純なことではないのです。

緊張にもいろいろあり、リラクセーションにもいろいろあると考えられます。しかし、複雑な要素を考えていくと混乱してしまうので、わかりやすいように単純化して二つの反応として表現しています。

一番大切なことは「緊張」と「リラクセーション」のバランスとメリハリです。
緊張すべきときに適度に緊張し、休むべきときに適度にリラックスする。そのバランスとメリハリを自分でつける方法がリラクセーション法です。

自分でコントロールできる、ということが大事です。それには前提として自分の身体の状態を的確に知ることが必要です。緊張や弛緩の感覚が敏感な人もあれば、そうでない鈍感な人もあるでしょう。
心身症の患者さんにおいては、そのような感覚が健康な人に比べて敏感すぎたり鈍感すぎたりする傾向があることが分かってきています。

そのような感覚を適切なものにして、セルフコントロールを目指すのが、心身医学的なリラクセーション法です。様々なリラクセーションの方法がありますが、それぞれに長所と短所があり、自分に合った方法を見つけることが大切です。

リラクセーション法はその使い方が大事です。
リラクセーションの習得に熱心になってしまってかえって緊張がとれない、という笑い話のようなことが実際にはしばしばあるので注意しましょう。

一つの例として筋肉の活動を電気信号で表した「筋電図」を考えてみます。
筋肉を緊張させると、筋肉の活動は大きくなり、筋電位が高くなります。この緊張は自分である程度は"感じる"ことができます。
もし筋肉をリラックスさせたいと思ったらこの筋肉の活動レベルを落せばよいことになります。しかし実際には、なかなか思うようにはリラックスできないことも多いのです。

emg1.gif弛緩      緊張          弛緩 emg2.gif


つまり、
◆私たちの感じる緊張度と実際の筋電位は解離していることも多い。
◆緊張度を思うようにコントロールできないことも多い。

のがふつうです。
そのために知らず知らずのうちに過緊張状態になって、それが習慣化したために、慢性的な痛みを感じたり(慢性疼痛、筋緊張型頭痛など)、思うように動かなくなったりすることがあります(書痙、斜頸など)。

バイオフィードバックを用いることにより、この筋電位と実際に感じている緊張度とを近づけることができます。言い換えれば筋緊張のセルフコントロールが可能になります。

筋肉の緊張からくる肩こりや緊張型頭痛、書痙などのケースでは、
1)症状は自覚しているが、筋肉の緊張に気づいていない
2)緊張に気づいてはいるが、緊張を取ることができない
という2つの場合があります。

1)の場合は、「知らず知らずのうちに緊張してしまっている」という場合で、その自覚に乏しいわけです。知らず知らずのうちに身体のある部分に力が入っていることは意外に多いものです。そのような場合は、それに気づくことが第一歩です。

2)の場合は、「なかなか思うように緊張が取れない「力が抜けない」という場合で、これも実際によくあるケースです。この場合は、力の抜き方が分からない、どうやってリラックスすればよいかわからない、ということですから、そのやり方を知って、学習することが第一歩となります。

このいずれにも、バイオフィードバックが役に立ちます。
まず、筋電図をリアルタイムでフィードバックし、力を入れたり抜いたりしたときの変化がわかるようにします。ここで、筋電位が上がったり下がったりしたときの身体の感覚の違いに注意するようにします。

次に、筋電位を思うようにコントロールできるよう練習します。これには筋弛緩法などの特定の方法を用いる場合と、特に方法は用いず、自由に行う場合とがあります。

いずれにしても、初めはなかなかコントロールが思うようにできませんが、重ねるうちにコントロールが可能になります。生理学的には、脳の中に今までに無かった新たな回路を作っていく、ということもできます。そして、最終的にはフィードバックはなくても身体の状態を知って調整できるようになることを目指します。

 

からだの声をきく、具体的なアプローチの方法です。
これには決まった答えはなく、日々模索しているところですが、現在のところは次のような方法を適宜組み合わせて行っています。

(1) 何らかの身体からのアプローチ(主にリラクセーション法)を行う。
 自律訓練法、リラックス呼吸法、筋弛緩法、場合によっては催眠など。
 もし治療者が何らかの代替療法を行える場合は、それを用いることもあります。

(2) バイオフィードバックを用いる。
 身体で起こっている変化を眼に見える形にします。
 下記の例を参照して下さい。

(3) 心身医学の枠組み
 枠組みとして、治療者クライエントの関係も考慮した、心身医学的アプローチの枠組みを用います。

(4) (1)-(3)のアプローチで出てきたことをコンセプトに基づいて扱う
 どこまで扱うかは治療者の力量や枠組みによって変わります。


例)バイオフィードバックを中心に行う場合(他の場合でもかなり共通するプロセスです)。

1) バイオフィードバックによって、普段は気づかない、刻々と変化するからだの状態をとらえます。フィードバックされた身体の状態と、自分で感じるからだの感覚との間の乖離に気づくことが手掛かりになって、「身体との対話」が可能になります。
また感情によって動く指標を用いる場合は、一種の外在化の形になります。

2) 身体との対話を通して身体感覚や心身相関など、いろいろな気づきが深まり、それを治療者と共有します。そのような気づきは、やがて症状の意味に気づくことにつながり、自己の統合がなされて本来の自分を取り戻します。

3) 感情の外在化を行った場合は、自己の感情に気づき、それを治療者と共有することでカタルシスなどの心理的プロセスが起こります。
 また、身体の状態がどのような感情と結びついているかを確認する中で、症状の意味(身体が伝えてくれていること)に気づき、自己の統合へと進みます。

心と身体をつなぐルートの中でも比較的馴染みがあると思われる自律神経系について、心身医学の立場から述べたいと思います。この自律神経系については生理学的な立場からいろいろな専門的内容があると思いますが、ここでは細かいことは省略させて頂きます。

自律神経の「自律」というのは、運動神経などのように意識的に働かせることができるものではなく、状態に応じて「自動的に」調節される神経系ということです。

そして自律神経には交感神経と副交感神経とがあります。
交感神経は、身体を活動、緊張、攻撃などの方向に向かわせる神経で、手に汗を握ったようなときにより働いている神経です。副交感神経は内蔵の働きを高めたり、身体を休ませる方向に向かわせる神経です。

例えば、自律神経によって調節されるものの一つに心拍数があります。
普通は1分間に約60~80回くらいの心拍がありますが、運動をするとそれが100から150くらいに増えます。運動以外でも、例えば人前で緊張したりすると「ドキドキする」などと言いますが、そのようなときには心拍数が安静時よりも上がっているのが普通です。

そのようなときには交感神経の緊張が副交感神経の緊張を上回った状態にあると考えられます。ぐっすりと眠っているときには逆に副交感神経優位となり、その人の変動の中で最も低い心拍数に近い状態になっているでしょう。

このように、自律神経の働きによって、身体の状態や周囲の状況に反応して心拍数は増えたり減ったりします。例えば運動をしたときには身体に多くの血液を送る必要があるので、自動的に心拍数が上がります。「これから運動をするから心拍数を上げておこう」などと、意識的に上げるものではないし、通常はできるものでもありません。

このように本来自律神経というのは意識しないでも勝手に調整されて、身体をより適切な状態に持っていこうとしてくれる、言わばありがたい神経なのです。
これをいちいち自分の意識で調整していては大変です。まして、眠っている間に調整などできるものではありません。

しかし、勝手にしてしまうことで、困ったことになることがあります。例えば「慢性疼痛」という病態があります。これは、何らかのきっかけで疼痛が生じ、それが慢性化して、通常の内科、整形外科、麻酔科などの治療でも改善が難しくなった病態を言います。

この慢性疼痛では疼痛のある部位を中心とした筋肉の緊張が見られ、末梢の血流が悪くなり、疲労物質などが滞り、皮膚温も低下してさらに疼痛が増し、それによってさらに筋緊張や血流の低下が生じる、という悪循環に陥っていることが多いのですが、この悪循環に交感神経の緊張が関与していることがあります。

痛いとどうしてもリラックスはできませんから、交感神経は緊張しがちで、思考もネガティブになってしまいます。ネガティブな思考は周囲との関係も悪化させますから交感神経の緊張が生じやすくなります。交感神経が緊張すると筋肉の緊張や末梢の血管の収縮による血流の低下や皮膚温の低下を引き起こし、上の悪循環を加速させるのです。

本来身体をより適切な状態に持っていってくれるはずの自律神経が、痛みの持続という期待しない状態に関与してしまっているのです。
このような状態では何とか意識的にでも交感神経の緊張を取り除く方向に持っていくことが必用になります。そのような具体的な方法としてリラクセーションバイオフィードバックなどがあります。

本来自動的に調整される自律神経を、半ば意識的にコントロールすることで、身体の状態をより適切な状態に保つことができ、本来のバランスを取り戻すことにつながります。

心療内科とストレス

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◇心療内科とストレス◇

ストレスとは何か、それにどう対処すべきかという問題は心療内科にとって、非常に重要な問題ですが、同時に非常に難しい問題であります。そもそも、ストレスそのものは悪ではない。しかし、過度のストレスが心身症の主要な原因になったり、ストレスによって精神疾患が誘発されることはよくあることです。

 "私はストレスで参っています" "ストレスにどう対処すればいいんでしょうか"という声をよく聞きます。結論的にはストレスを前向きにとらえ、むしろそれを生かして進む原動力としていく、それが出来れば大成功です。

この領域で始めて「ストレス」という言葉を使った、ハンス・セリエは
「ストレスとは生活のスパイスである」と言っています。
しかし、どうすればそうできるのか、そもそもそれができないから悩んでいるのだ、という訴えが返ってきそうです。

まず、一つよく理解しておかなければならないことは、周りの状況に対する自分の見方や、考え方、とらえ方がストレスを作っているという事実です。
たとえば、職場に嫌な上司がいて、それがストレスになっているとしましょう。そういう同じ状況でもそれをストレスと感じて参ってしまう人と、別にそのように感じることもなくうまくやっていく人とがあります。

だから、嫌な上司から逃れれば全てが解決するというものではないというのはおわかりでしょう。おそらくその上司から逃れたとしても自分を変えなければ、別のまた"嫌な"上司で苦しむことになるでしょう。

それをストレスと捉えてしまう状況が変わらなければ、という側面があります。さりとて、今のままの状況ではどうしてもそれはできないという場合も多いもの。そんなときは、環境を変えるのも一つの策ではあります。しかし、それだけでは先ほども言ったように、また別の人が嫌になる。

だから、環境を変えるのは自分含めた状況を変えるきっかけにするということです。
その為に環境を変えるのであって、自分はそのままで環境だけ変えるのでは状況は好転しないでしょう。環境を変えて自分が変われそうだと思ったら、可能なら環境を変えればよいのです。
しかし、逆に変えると余計にストレスが増えることにもなりかねません。例えば今の上司が嫌だから別の部署に変わったらもっと嫌な上司だったということもあり得ます。

要は自分を含めた状況が変わることが肝要ということですが、どうすれば変わるのか。無理して自分を変えようとしてもなかなか変わるものではありません。

薬を使って今よりもう少し周囲に対する反応の感度を下げるとか、しばらく休養して自分を見つめ治し、エネルギーを回復した上で前向きに考えられるようにしていくとか、仕事をしながらリラックスする法を身につけるとか、一人で抱え込まないで信頼できる第三者に相談し、気分的な負担を軽減させたり、状況を変える手助けをしてもらうとか。いろいろな方法があります。

自分とはどういうものかをよく知るということも大事です。弱点はすなわち特性であり、長所にもなり得ます。最終的には自分の特性、すなわち「自分らしさ」を真に生かしていけるような生き方ができれば、ストレスと感じていたことも前向きに生かせるようになれるでしょう。

そういういろんな方法を提示し、抱え込む負担を専門家として受けとめ、負担を軽減し、いろんな手法を実践していく手助けをするのが、心療内科医のささやかな努めの一つであると思います。
ただし、心療内科医はあくまで手助けをする立場であって治療の主体は患者さんにあるということが重要です。

心療内科とは

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心療内科は心身医学を内科の領域において実践する診療科です

心身医学というのは...
・病気を身体だけでなく、心理面、社会面をも含めて、
・それらを分けずに、
・それらの関係性を評価しながら、
・総合的・統合的にみていこうとする医学
ということができます。

分かりやすく言えば、
「こころとからだ、そして、その人をとりまく環境等も考慮して、それぞれの要素を分けずに、統合的によくしていこうとする医学」
と言えるでしょう。


心療内科が主な対象とするのは心身症です。

心身症の定義は次のようになっています。
(日本心身医学会, 1991)
「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的、ないし
機能的障害が認められる病態をいう。
ただし、神経症やうつ病など他の精神障害に伴う身体症状は除外する。」

少し難しい定義ですね。
まず、「器質的障害」というのは胃炎や気管支炎などの「炎症」や癌をはじめとする「腫瘍」など、物理的(物質的)に異常が生じる障害のことです。これはレントゲンやカメラなどの検査でとらえられることがほとんどです。

もう一つの「機能的障害」というのは、器質的な異常がなく、従ってレントゲンやカメラなどの検査をしても異常が見つからないけど、その動きや働き(機能)が障害されているものを言います。

例えば消化管でいうと、癌や炎症はないけど腸の動きに異常があり、その為に腹痛や便秘・下痢などの症状が出る......"過敏性腸症候群"などがこれにあたります。

このいずれにも心理・社会的因子が関与することがありますが、特に二つ目の「機能的障害」に関与することが多いです。(これらの関係を「心身相関」と言います。)器質的・機能的障害に心理・社会的因子が密接に関与している病態を心身症として扱うことになります。

よく、「ストレスが関係している」などと言われるのは、心理的因子が関与しているということになります。ストレスだけでなく、幼少時の体験や性格、社会的スキルや対処方法に問題がある場合も同じです。
社会的因子というのは、会社での労働環境が劣悪であるとか、家族関係に問題があるとか、災害のトラウマなどを指しますが、心理的因子とはっきり区別することはできません。

これらは多かれ少なかれ、病気に関与しているものなのですが、その割合が大きく、その面を考慮した方が適切に治療できる場合(もっといえば考慮しないとどうしようもない場合)に「心身症」として扱うことになるのです。
ただし、心理・社会的因子と病気との関連は、単に「心が原因で病気が生じる」というような直線的なものとは限らないという点に注意する必要があります。

神経症やうつ病などの精神障害でも身体症状が出ることがありますが、これは「除外する」となっています。それは精神科の領域になるからです。心身症はあくまで、「身体疾患の中で」とあるように、身体疾患の一つなのです。
以上が心身症の定義です。


心身医学がでてきた背景

日本の医学は西洋医学に基づくものですが、それは身体を各部分に分けて、それぞれの専門家がそれぞれのパーツを科学的にアプローチしていこうとするものです。

たとえば、内科の中でも狭心症などの心臓関係は「循環器内科」、胃潰瘍・胃炎などの内臓関係は「消化器内科」、喘息などの呼吸器関連は「呼吸器内科」、ホルモンの異常などによるものは「内分泌内科」、といった具合です。これも非常に大事なことで、心身医学はこれを否定するものでは決してありません。

しかし、病態が複雑化し、慢性的病態や生活習慣病、機能的病態などが増えてきて、そのような捉え方だけでは対応できないものが増えてきたのです。そこで、そのような病態により適切に対応できる医学が必要となり、心身医学が出てきたのです。

上に述べたような心身症を心身医学的に扱うのが心療内科である、ということです。
もう一度、分かりやすくまとめて言えば、
「こころとからだ、そして、その人をとりまく環境等も考慮して、それぞれの要素を分けずに統合的によくしていこうとする医学(医療)」
が心療内科であり心身医学である、ということになります。

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