04) ストレスアセスメントの最近のブログ記事

身体症状が持続するが対応する医学的所見に乏しく、主観的訴えと客観的評価の乖離が大きい疾患群は、機能性身体症候群(functional somatic syndrome; FSS)と呼ばれている。FSSは各分野にまたがり、通常の治療が奏功せず、無用な検査等による医療経済的損失などの問題から病態の解明が求められている。


我々はFSSの自律神経機能の異常とストレスの関与に着目し、精神生理学的ストレスプロファイル(ストレスに対する自律神経系機能に関連する生理学的指標の反応と心理指標をみるもの)をFSS患者に対して行い、その特徴について検討してきた。


FSS群における精神生理学的ストレス反応は、健常対照群と比べて低く、外的状況に適切に対応しにくい側面を捉えたと考えられた。また、クラスター分析では、その中に低反応群と高反応群の少くとも2群が存在し、群分けは疾患分類に依存しなかった。さらに、FSSにおいては自覚的な緊張感が高く、客観的評価と自覚的評価の関係性が健常群と異なっていた。また、ストレス負荷前の心拍変動も低下していた。


これら一連の結果は、FSSの病態解明への手がかりになり、医療現場に与える影響が大きい。また、ストレスプロファイルの手法は、ますます増加すると思われるストレス関連疾患など、従来の医学的評価が困難な病態の評価への応用の可能性がある。

からだは常に変化しています。

常に変化しているからだの状態をとらえる手掛かりとしてさまざまな指標が考えられますが、バイオフィードバックでは動的な変化をとらえやすい、精神生理学的指標を主に用いて、それを治療的に扱います。

1) 筋電図 (EMG) <筋肉の緊張・弛緩をみる>
緊張が強いられる現代の生活では、持続的な筋緊張が関与する肩こり、頭痛、腰痛、慢性疼痛などが問題となっています。このような病態に関わる筋緊張の度合いを捉えます。

2) スキンコンダクタンス (SCL) <情動性発汗をみる>
発汗の中でも手掌発汗は中枢性で、情動の変化に対応しています。ウソ発見器はこれを用いたもので、心理的な動揺でも鋭敏に変化します。覚醒の度合い、精神的な動揺/安定性、緊張/弛緩などを捉えます。

3) 皮膚温 (TEMP) <皮膚の温度をみる>
末梢血管の収縮拡張などによって、皮膚温は常に変化しています。ストレスがかかると末梢の血管は収縮して循環が悪くなり、皮膚温は低下します。皮膚温はこのような状況に応じた末梢循環の変化を捉え、自律訓練法などのリラクセーションの指標としても重要です。

4) 容積脈波 (BVP) <末梢血管の収縮拡張をみる>
皮膚温とともに、末梢血管の変化をより直接的に捉えます。また、脈波から脈拍数が分かり、心電図をつけなくても心拍数を捉えることができます。

5) 呼吸 (RESP) <呼吸のパターン・深さ・速さをみる>
呼吸はさまざまな身体調整法の鍵となるものです。意識と無意識の接点でもあります。呼吸を捉えることで、心身のさまざまな状態を推定することができます。

6) 心電図 (EKG) <心臓の働きをみる>
心臓はからだの活動とリズムの源です。身体的な状態はもちろん、心理的な状態によってもその機能は大きく変化します。

バイオフィードバックでは主に心拍数と心拍変動を捉えます。心拍数は生体リズムの源で、緊張すると「ドキドキする」と言われるように、自律神経系の緊張/弛緩の総合的な指標でもあります。

7) 心拍変動 (HRV) <自律神経の機能の指標>
心拍変動は自律神経機能を客観的に捉えたものとして、最も研究がなされている指標の一つです。心拍変動から、自律神経系の適応の柔軟性、交感神経・副交感神経のバランス、緊張の度合いなどを評価できます。

自律神経というのは身体のいろんな機能を調整している神経です。例えば心臓をバクバクさせたり抑えたり、汗を出したり、血管を開いたり閉じたり、瞳孔を開いたり閉じたり、胃腸の動きを調整したりしている。自律神経の働きが乱れると、いろんな症状が出てくると考えられています。

このような自律神経の乱れからくる病態をよく「自律神経失調症」などといわれます。
しかし、この「自律神経失調症」というのはクセモノです。
一体全体自律神経がどう「失調」しているのか、おそらくはあまり誰も分かっていません。
また、ホントに自律神経が「失調」しているのかどうかすらわからないまま、この病名がつけられたりしています。

そんな中で、慢性的なストレスが関連した心身症の患者さんにおける、自律神経系のストレスに対する反応を、健康な人と比べて調べてみました。

すると、心身症の患者群の、自律神経系の知的作業ストレスに対する反応性が低下していることを示す結果がでてきました(「心身医学」45,685,2005⇒Publication)。

すなわち、心身症(この場合は慢性的なストレスを受けた人達と解釈してよい)患者では、自律神経の反応が鈍くなり、外的状況に適切に対応できなくなっているようなのです。
このことと、個々の心身症の症状がどう関係してくるのかはまだはっきりはわかっていませんが、一つの大きな要因となっていることは間違いなさそうです。

このあたりがもう少しはっきりしてくると、心身症の評価や治療へも応用できそうで、現在研究を進めているところです。

ストレスプロファイル (Psychophysiological Stress Profile: PSP) とは

自律神経系など、身体の調整を行っていてストレスなどによって変化しやすい心身の調整機能を精神生理学的に調べる方法です。

ストレスに対する自律神経系などの身体の反応には、ある程度安定したプロフィールがあるとされています。PSPでは日常生活で体験するのに近いメンタルワークストレスによって、自律神経系や筋緊張などの生理的指標がどのように変化するかを調べ、その反応の仕方や自分で感じる身体の感覚との関係などを調べます。

例えば典型的には、ストレスによって、スキンコンダクタンス(情動性発汗)は上昇し、末梢の血管は収縮して皮膚温は低下し、心拍数は上昇し、額などの筋電位は上昇します。

しかしその反応の仕方が、ある指標では過剰であったり、反応が鈍かったり、ストレス前の方がかえって緊張が高かったり、ストレス後の回復が遅れたりします。また、情動性の指標は反応が高いけど、血管の反応は低いなど、指標によって反応のパターンが違ってくることもあります。そのとき、その人に特有の反応のパターンを評価するのがPSPです。

測定する指標  →バイオフィードバックで用いる指標
(1) 筋電図 (surface electromyogram: SEMG):
          筋肉の緊張弛緩をみる。身体的な緊張・リラックスの指標。
(2) 皮膚電気活動 (electrodermal activity: EDA):
          情動性発汗を反映。精神的な緊張・リラックスなどの指標。
(3) 皮膚温 (skin temperature: TEMP):
          末梢の血液循環を反映する。
(4) 容積脈波 (blood volume pulse: BVP):
          末梢血管の収縮拡張や脈拍数をみる。
(5) 呼吸 (respiration: RESP):
          呼吸のパターン、深さ、速さなどをみる。
(6) 心電図 (electrocardiogram: ECG):
          心臓の働きをみる。
 → heart rate variability: HRV: 心拍変動:
          交感神経と副交感神経の緊張やバランスを評価する。
(7) 脳波 (electroencephalogram: EEG):
          脳の機能的な状態をみる。

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手順
1)上記の信号を測定しながらしばらく安静にした後、簡単な問題を行ってもらい、その後また安静にします。過呼吸テストを加えることもあります。
2) 前後にPOMSや自覚的スコア、身体感覚増幅尺度などの質問紙を行います。
3) 自律訓練法などを行っている場合は、測定しながら引き続いて行ってもらい、そのときの変化をみます。

目的と意義
(1) 精神生理学的な評価(自律神経機能及び筋緊張の評価)。
自律神経系や筋緊張を反映する指標のストレスによる反応性を評価します。
また、自覚的な身体感覚や気分との関連性を併せて検討します。それによって、心身相関などの病態を把握する材料とします。

(2) 心身相関の気づきや理解を促す。
ストレスによる生理的指標の変化をフィードバックすることで、心身相関の理解や気づきのきっかけになります。

(3) 最適なリラクセーションの方法の選択。
いくつかあるリラクセーション法・行動医学的アプローチの中で、どれが一番合っているかを推定します。

(4) 自律訓練法・呼吸法などの行動療法の効果判定。
すでに自律訓練法や呼吸法などを行っている場合は、その際の指標の変化を調べ、効果を評価します。それをフィードバックすることで、モチベーションや理解を高めます。

(5) バイオフィードバックの為の評価。
バイオフィードバックでは、上記の指標を自分でコントロールして、心身をよりよい状態に持っていくことを目指しますが(後述)、どのようなバイオフィードバックを行うかをPSPで評価します。

(6) 心理的効果(外在化と行動変容)
PSPを各治療の節目で用いることで、治療者患者間で共有できる客観的な指標が得られ、外在化や行動変容などの心理的効果をもたらします。

◇心療内科とストレス◇

ストレスとは何か、それにどう対処すべきかという問題は心療内科にとって、非常に重要な問題ですが、同時に非常に難しい問題であります。そもそも、ストレスそのものは悪ではない。しかし、過度のストレスが心身症の主要な原因になったり、ストレスによって精神疾患が誘発されることはよくあることです。

 "私はストレスで参っています" "ストレスにどう対処すればいいんでしょうか"という声をよく聞きます。結論的にはストレスを前向きにとらえ、むしろそれを生かして進む原動力としていく、それが出来れば大成功です。

この領域で始めて「ストレス」という言葉を使った、ハンス・セリエは
「ストレスとは生活のスパイスである」と言っています。
しかし、どうすればそうできるのか、そもそもそれができないから悩んでいるのだ、という訴えが返ってきそうです。

まず、一つよく理解しておかなければならないことは、周りの状況に対する自分の見方や、考え方、とらえ方がストレスを作っているという事実です。
たとえば、職場に嫌な上司がいて、それがストレスになっているとしましょう。そういう同じ状況でもそれをストレスと感じて参ってしまう人と、別にそのように感じることもなくうまくやっていく人とがあります。

だから、嫌な上司から逃れれば全てが解決するというものではないというのはおわかりでしょう。おそらくその上司から逃れたとしても自分を変えなければ、別のまた"嫌な"上司で苦しむことになるでしょう。

それをストレスと捉えてしまう状況が変わらなければ、という側面があります。さりとて、今のままの状況ではどうしてもそれはできないという場合も多いもの。そんなときは、環境を変えるのも一つの策ではあります。しかし、それだけでは先ほども言ったように、また別の人が嫌になる。

だから、環境を変えるのは自分含めた状況を変えるきっかけにするということです。
その為に環境を変えるのであって、自分はそのままで環境だけ変えるのでは状況は好転しないでしょう。環境を変えて自分が変われそうだと思ったら、可能なら環境を変えればよいのです。
しかし、逆に変えると余計にストレスが増えることにもなりかねません。例えば今の上司が嫌だから別の部署に変わったらもっと嫌な上司だったということもあり得ます。

要は自分を含めた状況が変わることが肝要ということですが、どうすれば変わるのか。無理して自分を変えようとしてもなかなか変わるものではありません。

薬を使って今よりもう少し周囲に対する反応の感度を下げるとか、しばらく休養して自分を見つめ治し、エネルギーを回復した上で前向きに考えられるようにしていくとか、仕事をしながらリラックスする法を身につけるとか、一人で抱え込まないで信頼できる第三者に相談し、気分的な負担を軽減させたり、状況を変える手助けをしてもらうとか。いろいろな方法があります。

自分とはどういうものかをよく知るということも大事です。弱点はすなわち特性であり、長所にもなり得ます。最終的には自分の特性、すなわち「自分らしさ」を真に生かしていけるような生き方ができれば、ストレスと感じていたことも前向きに生かせるようになれるでしょう。

そういういろんな方法を提示し、抱え込む負担を専門家として受けとめ、負担を軽減し、いろんな手法を実践していく手助けをするのが、心療内科医のささやかな努めの一つであると思います。
ただし、心療内科医はあくまで手助けをする立場であって治療の主体は患者さんにあるということが重要です。

2015年5月

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