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01) 心療内科と心身医学
PSYCHOSOMATIC MEDICINE / MIND-BODY MEDICINE

 心療内科とは
 心療内科・精神科・神経内科の違い
 心療内科とストレス
  心と身体の関係-心身相関-
 心と身体の関係-自律神経系
 
02) こころとからだの対話
Mind-Body Dialogue
 からだ・気づき・アプローチとは
 バイオフィードバック・Biofeedbackとは
 リラクセーションとは
 失感情症 (アレキシサイミア) その(1) アレキシサイミア その(2)
 乖離と統合-キャッチボールと対話のプロセス
 心理療法とからだ-「心」と「身体」
 唄を忘れたカナリヤは...

03) 機能性身体症候群

04) ストレス・アセスメント
STRESS PROFILE 
  心療内科とストレス
 ストレス・プロファイル Psychophysiological Stress Profile (PSP)
 ストレスに対する自律神経系の反応

09) その他

10) 心身医学の研究

身体症状が持続するが対応する医学的所見に乏しく、主観的訴えと客観的評価の乖離が大きい疾患群は、機能性身体症候群(functional somatic syndrome; FSS)と呼ばれている。FSSは各分野にまたがり、通常の治療が奏功せず、無用な検査等による医療経済的損失などの問題から病態の解明が求められている。


我々はFSSの自律神経機能の異常とストレスの関与に着目し、精神生理学的ストレスプロファイル(ストレスに対する自律神経系機能に関連する生理学的指標の反応と心理指標をみるもの)をFSS患者に対して行い、その特徴について検討してきた。


FSS群における精神生理学的ストレス反応は、健常対照群と比べて低く、外的状況に適切に対応しにくい側面を捉えたと考えられた。また、クラスター分析では、その中に低反応群と高反応群の少くとも2群が存在し、群分けは疾患分類に依存しなかった。さらに、FSSにおいては自覚的な緊張感が高く、客観的評価と自覚的評価の関係性が健常群と異なっていた。また、ストレス負荷前の心拍変動も低下していた。


これら一連の結果は、FSSの病態解明への手がかりになり、医療現場に与える影響が大きい。また、ストレスプロファイルの手法は、ますます増加すると思われるストレス関連疾患など、従来の医学的評価が困難な病態の評価への応用の可能性がある。

ストレスプロファイル (Psychophysiological Stress Profile: PSP) とは

自律神経系など、身体の調整を行っていてストレスなどによって変化しやすい心身の調整機能を精神生理学的に調べる方法です。

ストレスに対する自律神経系などの身体の反応には、ある程度安定したプロフィールがあるとされています。PSPでは日常生活で体験するのに近いメンタルワークストレスによって、自律神経系や筋緊張などの生理的指標がどのように変化するかを調べ、その反応の仕方や自分で感じる身体の感覚との関係などを調べます。

例えば典型的には、ストレスによって、スキンコンダクタンス(情動性発汗)は上昇し、末梢の血管は収縮して皮膚温は低下し、心拍数は上昇し、額などの筋電位は上昇します。

しかしその反応の仕方が、ある指標では過剰であったり、反応が鈍かったり、ストレス前の方がかえって緊張が高かったり、ストレス後の回復が遅れたりします。また、情動性の指標は反応が高いけど、血管の反応は低いなど、指標によって反応のパターンが違ってくることもあります。そのとき、その人に特有の反応のパターンを評価するのがPSPです。

測定する指標  →バイオフィードバックで用いる指標
(1) 筋電図 (surface electromyogram: SEMG):
          筋肉の緊張弛緩をみる。身体的な緊張・リラックスの指標。
(2) 皮膚電気活動 (electrodermal activity: EDA):
          情動性発汗を反映。精神的な緊張・リラックスなどの指標。
(3) 皮膚温 (skin temperature: TEMP):
          末梢の血液循環を反映する。
(4) 容積脈波 (blood volume pulse: BVP):
          末梢血管の収縮拡張や脈拍数をみる。
(5) 呼吸 (respiration: RESP):
          呼吸のパターン、深さ、速さなどをみる。
(6) 心電図 (electrocardiogram: ECG):
          心臓の働きをみる。
 → heart rate variability: HRV: 心拍変動:
          交感神経と副交感神経の緊張やバランスを評価する。
(7) 脳波 (electroencephalogram: EEG):
          脳の機能的な状態をみる。

psp1.jpg 

手順
1)上記の信号を測定しながらしばらく安静にした後、簡単な問題を行ってもらい、その後また安静にします。過呼吸テストを加えることもあります。
2) 前後にPOMSや自覚的スコア、身体感覚増幅尺度などの質問紙を行います。
3) 自律訓練法などを行っている場合は、測定しながら引き続いて行ってもらい、そのときの変化をみます。

目的と意義
(1) 精神生理学的な評価(自律神経機能及び筋緊張の評価)。
自律神経系や筋緊張を反映する指標のストレスによる反応性を評価します。
また、自覚的な身体感覚や気分との関連性を併せて検討します。それによって、心身相関などの病態を把握する材料とします。

(2) 心身相関の気づきや理解を促す。
ストレスによる生理的指標の変化をフィードバックすることで、心身相関の理解や気づきのきっかけになります。

(3) 最適なリラクセーションの方法の選択。
いくつかあるリラクセーション法・行動医学的アプローチの中で、どれが一番合っているかを推定します。

(4) 自律訓練法・呼吸法などの行動療法の効果判定。
すでに自律訓練法や呼吸法などを行っている場合は、その際の指標の変化を調べ、効果を評価します。それをフィードバックすることで、モチベーションや理解を高めます。

(5) バイオフィードバックの為の評価。
バイオフィードバックでは、上記の指標を自分でコントロールして、心身をよりよい状態に持っていくことを目指しますが(後述)、どのようなバイオフィードバックを行うかをPSPで評価します。

(6) 心理的効果(外在化と行動変容)
PSPを各治療の節目で用いることで、治療者患者間で共有できる客観的な指標が得られ、外在化や行動変容などの心理的効果をもたらします。

心と身体の関係

英語では、"mind-body interaction" などと言います。
専門的な言葉では「心身相関」です。

心身相関は、心療内科の重要な概念の一つで、これだけで何冊かの本ができるくらいの内容なので、とても全てを述べることはできませんが、その中のいくつかについて述べたいと思います。

心と身体の間に、密接不離な関係があることは、今日では誰もが認めるところです。
ジョン・A・シンドラーというアメリカの医師が書いた「こころと身体の法則」という有名な本があり、最近その日本語訳が出ました。

その中には自律神経系や内分泌系(ホルモン)を通して、感情や悩みが如何に身体に影響を及ぼすかが、分かりやすく述べられているので、興味のある方は参考にして下さい。
その中でシンドラーは「身体的変化を起こさない感情はありません」と述べているほど、心と身体は密接な関係にあります。

心と身体を結ぶルートとして上述の自律神経系と内分泌系に加えて、今日では免疫系が言われています。
それぞれについて、さまざまな研究がなされています。

その中の自律神経系については、「自律神経失調症」などと言われたりもするので、少しは馴染みがあるかもしれません。これについては、次回以降に取り上げたいと思います。

内分泌系は身体のさまざまな機能を調整しているホルモンを分泌する系で、この異常としては、甲状腺機能亢進症(バセドー病)や低下症(橋本病)などが比較的知られた疾患です。ストレスとの関連では、コルチゾールが知られて
います。

免疫系は身体の防御システムで、ストレスや抑うつによって、この防御機能が弱くなり、病気に対する抵抗が弱まって病気になりやすくなる、といったことが知られています。


「ストレスが原因で...」「心因性...」?

さて、この心と身体の関係について、よく「ストレスが原因で...」などと言われたり、「心因性...」と言われたりします。「ストレスが原因で胃潰瘍になった」とか「心因性頭痛」「この症状は心因性のもの」など。

このような言い方の背景にあるのは、ストレスや心が原因で、結果として病気や身体的不調を招くといった直線的な考え方ですが、心と身体の関係はそんなに単純なものではありません。

たとえば、「仕事のストレスが原因で胃潰瘍になった」と言う場合。
この場合、胃潰瘍による不快な症状がストレスとなって仕事がうまくいっていない、ということも考えられます。同じ仕事のストレスがあっても、胃潰瘍にならない人もいます。

つまり、もともとの体質的なものや、食事の不摂生、生活習慣なども影響している可能性があります。また、その人の行動パターン(完璧主義など)も影響しているかもしれません。

仕事のストレスそのものより、仕事が忙しくて食生活が不規則になっていたり、睡眠不足が続いていた影響が出た可能性もあります。仕事のときにコーヒーを飲み過ぎて、胃壁が荒らされたのかもしれません。

このように、「仕事のストレス」→「胃潰瘍」と1対1で単純に結ばれるものでもないし、一方通行でもないということです。このような直線的なモデルに対して、相互作用や多要因を考慮したモデルを「円環的モデル」などと言われます。

すなわち、上に述べたような生活習慣、食生活、ストレス、仕事、行動パターンなどさまざまな要因と胃潰瘍という身体的病態とは直線的な関係にあるのではなく、それぞれが互いに複雑にからみあって一つのシステムを形成しているのです。

そして、それぞれの要素において相互作用があり、さらに、全体があいまって生じてくる作用もあります。だから、その中の一つだけを切り出して論じることはできないということです。

上の例だと、様々な因子の中の「仕事のストレス」だけを取り出して、仕事のストレスだけがなければよいかというと、そうではありません。仕事のストレスがなくなったらやる気もなくなって、うつ病などの別の病気を招くことも考えられます。

このような場合は、全体をみながら一つ一つの要素もみていく、というアプローチが必要です。
全体のシステムをよい方向に持っていくという視点が重要になるのです。

「心療内科とは」で心身医学というのは...
・病気を身体だけでなく、心理面、社会面をも含めて、
・それらを分けずに、
・それらの関係性を評価しながら、
・総合的・統合的にみていこうとする医学
ということができると述べましたが、この「関係性を評価しながら、総合的・統合的に」というのは上記のことを言っているのです。

「ストレスが原因」というような単純なものではないということがお分かり頂けたでしょうか。

心療内科とストレス

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◇心療内科とストレス◇

ストレスとは何か、それにどう対処すべきかという問題は心療内科にとって、非常に重要な問題ですが、同時に非常に難しい問題であります。そもそも、ストレスそのものは悪ではない。しかし、過度のストレスが心身症の主要な原因になったり、ストレスによって精神疾患が誘発されることはよくあることです。

 "私はストレスで参っています" "ストレスにどう対処すればいいんでしょうか"という声をよく聞きます。結論的にはストレスを前向きにとらえ、むしろそれを生かして進む原動力としていく、それが出来れば大成功です。

この領域で始めて「ストレス」という言葉を使った、ハンス・セリエは
「ストレスとは生活のスパイスである」と言っています。
しかし、どうすればそうできるのか、そもそもそれができないから悩んでいるのだ、という訴えが返ってきそうです。

まず、一つよく理解しておかなければならないことは、周りの状況に対する自分の見方や、考え方、とらえ方がストレスを作っているという事実です。
たとえば、職場に嫌な上司がいて、それがストレスになっているとしましょう。そういう同じ状況でもそれをストレスと感じて参ってしまう人と、別にそのように感じることもなくうまくやっていく人とがあります。

だから、嫌な上司から逃れれば全てが解決するというものではないというのはおわかりでしょう。おそらくその上司から逃れたとしても自分を変えなければ、別のまた"嫌な"上司で苦しむことになるでしょう。

それをストレスと捉えてしまう状況が変わらなければ、という側面があります。さりとて、今のままの状況ではどうしてもそれはできないという場合も多いもの。そんなときは、環境を変えるのも一つの策ではあります。しかし、それだけでは先ほども言ったように、また別の人が嫌になる。

だから、環境を変えるのは自分含めた状況を変えるきっかけにするということです。
その為に環境を変えるのであって、自分はそのままで環境だけ変えるのでは状況は好転しないでしょう。環境を変えて自分が変われそうだと思ったら、可能なら環境を変えればよいのです。
しかし、逆に変えると余計にストレスが増えることにもなりかねません。例えば今の上司が嫌だから別の部署に変わったらもっと嫌な上司だったということもあり得ます。

要は自分を含めた状況が変わることが肝要ということですが、どうすれば変わるのか。無理して自分を変えようとしてもなかなか変わるものではありません。

薬を使って今よりもう少し周囲に対する反応の感度を下げるとか、しばらく休養して自分を見つめ治し、エネルギーを回復した上で前向きに考えられるようにしていくとか、仕事をしながらリラックスする法を身につけるとか、一人で抱え込まないで信頼できる第三者に相談し、気分的な負担を軽減させたり、状況を変える手助けをしてもらうとか。いろいろな方法があります。

自分とはどういうものかをよく知るということも大事です。弱点はすなわち特性であり、長所にもなり得ます。最終的には自分の特性、すなわち「自分らしさ」を真に生かしていけるような生き方ができれば、ストレスと感じていたことも前向きに生かせるようになれるでしょう。

そういういろんな方法を提示し、抱え込む負担を専門家として受けとめ、負担を軽減し、いろんな手法を実践していく手助けをするのが、心療内科医のささやかな努めの一つであると思います。
ただし、心療内科医はあくまで手助けをする立場であって治療の主体は患者さんにあるということが重要です。

2024年10月

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