アレキシサイミアは精神活動と情動との機能的解離が関与しているといわれています。
「(アレキシサイミアは)精神機能を行う大脳新皮質と情動回路にあたる旧脳(大脳辺縁系、視床下部等)との機能的解離が原因ともいわれる。」
「この両者の解離は、新脳の精神活動が、旧脳の生存機能を無視することとなり、またその逆の現象も起こり、身体的な疲労に調和した精神機能の静穏化がさまたげられ、過剰な活動が行われることとなる。」
(「ストレスとコーピング-ラザルス理論への招待」
R・S・ラザルス講演、林峻一郎編・訳 より引用)
現代のストレスフルな生活では、新皮質の活動ばかりが強いられ、それに対応するべき情動の活動が抑えられてしまうという傾向があります。
その結果、心身の活動がアンバランスになり、歪みが身体症状として表れたのが、心身症などのストレス関連疾患ということになります。
具体的には
「24時間、寝ても醒めても常に考えてしまう」
という人や、
「職場での嫌なことが忘れられず、ずっと頭にある」
という人が、
感情の気づきや表現に鈍くなり、何を見ても感動できなくなったり、身体の感覚が鈍くなってきたり、他人から見られる自分と本当の自分との間に解離があるように思われたりすることがあります。
また、このような表面的なレベルにとどまらず、もっと深いレベルで感情の気づきに乏しくなることもあります。
そのような場合は、精神分析的な「防衛」としての意味があったり、ある意味適応的にそうなっている場合もあります。
すなわち、意識的か無意識的かはわかりませんが、「そうでもしなければやっておれない」という状況です。
このような機能的解離を少なくして、自分自身の「身体の声」や「心の声」を聞いていく方法の一つが、バイオフィードバックなど、からだの声をきくアプローチです。
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心身症の患者に アレキシサイミア(Alexithymia)=失感情症
の傾向があると提唱したのは、アメリカのSifneos(シフネス)という精神科医です。このような傾向のある人たちには従来の分析的な心理療法が行いにくいことなどから、これらの人たちには別の心身医学的アプローチが必要であると考えられました。
以後、アレキシサイミアは心身症の病態の一つの重要な要素と考えられてきました。
アレキシサイミアの特徴を簡単に言うと
・自分の感情や、身体の感覚に気づくことが難しい(鈍感である)。
・感情を表現することが難しい。
・自己の内面へ眼を向けることが苦手である。
といったことが挙げられます。すなわち、内面の感情や感覚の気付きが低下して、感情を伝えることも障害されている状態をいいます。
これには、発達早期の母子相互の感情的な交流が障害されていることが関与しているとも言われています。また、家族病理との関係や社会文化的な因子との関連もあると言われています(感情の表現をあまりよしとしない民族に、アレキシサイミアの傾向が高いなど)。
生物学的なメカニズムとしては、
・感覚や感情を司る脳幹部や大脳辺縁系と、認知や言語機能に関与する大脳皮質との伝達機能障害が関係している
・左右大脳半球の機能の解離がある
・右大脳半球で何らかの機能障害がある
などの説があります。
感情の気付きや表現に乏しいと、徐々に内面に抑圧された感情がたまりやすくなり、身体症状化することになります。そういう傾向がもともとあって心身症になるという場合もありますが、あまりにストレスフルな状況の中で、「そうでもしなければやってられない」という心理機制から、アレキシサイミアの状態になることも考えられます。
「特に問題ありません」「全て何事もうまく言っています」といいながら、説明できない身体症状が続いている人達の背景に、このような病態が隠されていることがあります。このような場合は、少しでも感情を表出できるように援助することが大切になってきます。
このようなアレキシサイミアは アレキシソミア(Alexisomia)=失体感症
とも深く関係しているとされています。実際、感情と身体の感覚への気づきとは深く結びついているようです。
このアレキシソミアは、心身症においてさらに重要な概念なので、別の項に述べることにします。
アレキシサイミア その(2)