COLUMN <MIND-BODY THINKING.COM-こころとからだの対話->で「変化」と一致するもの

機能性身体症候群

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近年、社会や医療構造の変化などに伴って、疾患の構造も変化しつつあります。身体症状が続くのに、通常の医学的検査で対応した異常がみつからず、医学的アプローチが奏功しにくい疾患が増えてきました。

欧米諸国でも同様の問題があり、それらの疾患は機能性身体症候群(functional somatic syndrome; FSS)と呼ばれています。FSSは「身体症状の訴え、苦痛、障害の程度が、個々の疾患に特異的な構造や機能によって説明できる障害の程度に比べて大きいという特徴を持つ一連の疾患群」と定義されています。

例えば、胃痛や胸焼けが続くので病院で検査をしたけども、胃カメラでは異常がないと言われた。しかし、症状は依然として続き、薬で一時的に多少はよくなるものの、またすぐに症状がでてくる。どこへ行っても異常がない、気の問題だ、などと言われる。

このようなケースは、確かに胃壁に潰瘍や胃炎があるなど、器質的な異常はないのですが、胃の機能(はたらき)に問題があり、胃炎などと同じ症状が出てきます。これは、機能性ディスペプシアとよばれているものです。

FSSは、この機能性ディスペプシアの他に、過敏性腸症候群、線維筋痛症、慢性疲労症候群などをコア疾患として、さまざまな領域にわたって機能的な異常が表れる疾患群のことを言います。

これらは、互いに合併したり、症状の移動がみられたりして、共通の問題点や特徴があります。そのため、一つの症候群として捉えた方がよいと考えられてきました。

FSSの患者さんは、医学的検査を繰返し受け、治療関係がこじれやすく、医療機関をワンダリングするなど、その対応にはマンパワーや医療経済的観点からも問題が大きく、FSSに対するより適切な病態把握と対応が求められています。

からだは常に変化しています。

常に変化しているからだの状態をとらえる手掛かりとしてさまざまな指標が考えられますが、バイオフィードバックでは動的な変化をとらえやすい、精神生理学的指標を主に用いて、それを治療的に扱います。

1) 筋電図 (EMG) <筋肉の緊張・弛緩をみる>
緊張が強いられる現代の生活では、持続的な筋緊張が関与する肩こり、頭痛、腰痛、慢性疼痛などが問題となっています。このような病態に関わる筋緊張の度合いを捉えます。

2) スキンコンダクタンス (SCL) <情動性発汗をみる>
発汗の中でも手掌発汗は中枢性で、情動の変化に対応しています。ウソ発見器はこれを用いたもので、心理的な動揺でも鋭敏に変化します。覚醒の度合い、精神的な動揺/安定性、緊張/弛緩などを捉えます。

3) 皮膚温 (TEMP) <皮膚の温度をみる>
末梢血管の収縮拡張などによって、皮膚温は常に変化しています。ストレスがかかると末梢の血管は収縮して循環が悪くなり、皮膚温は低下します。皮膚温はこのような状況に応じた末梢循環の変化を捉え、自律訓練法などのリラクセーションの指標としても重要です。

4) 容積脈波 (BVP) <末梢血管の収縮拡張をみる>
皮膚温とともに、末梢血管の変化をより直接的に捉えます。また、脈波から脈拍数が分かり、心電図をつけなくても心拍数を捉えることができます。

5) 呼吸 (RESP) <呼吸のパターン・深さ・速さをみる>
呼吸はさまざまな身体調整法の鍵となるものです。意識と無意識の接点でもあります。呼吸を捉えることで、心身のさまざまな状態を推定することができます。

6) 心電図 (EKG) <心臓の働きをみる>
心臓はからだの活動とリズムの源です。身体的な状態はもちろん、心理的な状態によってもその機能は大きく変化します。

バイオフィードバックでは主に心拍数と心拍変動を捉えます。心拍数は生体リズムの源で、緊張すると「ドキドキする」と言われるように、自律神経系の緊張/弛緩の総合的な指標でもあります。

7) 心拍変動 (HRV) <自律神経の機能の指標>
心拍変動は自律神経機能を客観的に捉えたものとして、最も研究がなされている指標の一つです。心拍変動から、自律神経系の適応の柔軟性、交感神経・副交感神経のバランス、緊張の度合いなどを評価できます。

バイオフィードバックとは...

バイオフィードバックでは、からだの変化をとらえる生理指標を使って「からだの声をきき」「こころ」とからだの対話」を行います。

「バイオ」=からだの
「フィードバック」=情報を返す
という言葉の通り、普通は気づかないからだの変化を測定し、それをフィードバックすることにより、からだの状態をよく知り、心身をよりよい状態に調整することを目指す方法です。

私達のからだは動的なものです。
「いま」のからだと「過去」-例えば1時間前-のからだとは違います。「未来」-例えば1時間後-のからだはまた変化しています。

心臓は常に鼓動を繰り返していて、血液は常にからだの中を循環しています。そのために末梢血管に脈が生じ、皮膚の温度は常に変化します。汗の量は体温を調整するために刻々と変動し、胃腸は蠕動運動を行い、筋肉は緊張と弛緩を繰り返しています。そして、心理的なストレスによって、これらの動きは大きく変化します。

このように常に変化しているからだの状態をとらえる手掛かりとして、さまざまな指標が考えられますが、バイオフィードバックでは動的な変化をとらえやすい精神生理学的指標を主に用いて、それを治療的に扱います。



具体的には、
・ 筋電図 (肩こりや頭痛などに関係する、筋緊張をみる)
・ スキンコンダクタンス (精神的な緊張、動揺や安定性、情動の緊張やリラックスをみる)
・ 皮膚温 (痛みやむくみに関係する、血液循環をとらえる)
・ 容積脈派 (末梢血管の収縮・拡張から血液循環をとらえ、脈拍数をみる)
・ 呼吸 (こころとからだの接点である、呼吸のパターン・深さ・速さをみる)
・ 心電図 (血圧や動悸などに関係する、心臓のはたらきをみる)
・ 心拍変動(発汗、ほてり、ふらつき、腹痛、便秘などいろいろな症状に関係する自律神経の働きみる)
などを同時に測定します。
どれも衣服を着たままで、指先などにテープを貼るだけで簡単に計ることができ、痛くもかゆくもありません。

バイオフィードバックは、客観的な指標(=「からだとこころの道しるべ」)で確認しながら、心身を調整できるのが最大のメリットです。リアルタイムで確認することで、からだの感覚と実際の状態とのギャップを埋めて、正しい調整を目指します。

そして、もっと大事なことは、それを通して自分のからだの状態に気づくこと、すなわち「からだの声をきく」ことです。自分のからだと十分に対話し、「こころとからだの対話」を進めていきましょう。

バイオフィードバックは、からだの状態を客観的にとらえて、それを主観的な体験に戻す過程を含んでいます。主観的に体験されたものと、客観的に表示されたものが、まるで対話を行うようなイメージです。

客観的に表示されたものは、セラピストとクライエントで共有することができます。
このようなプロセスを通して、からだの声を聞き、こころの声に耳を傾けるのがバイオフィードバックです。

以上をまとめると
バイオフィードバックとは
・刻々と変化している
・今ここにあるからだの状態を捉えて
・からだの状態とその変化の過程を
・からだの持ち主に
・いまここでフィードバックし
・それを治療者と共有し
・からだの状態を知り
・からだの声を聞き
・からだを望む状態に調整したり
・気づきを深めたりする方法

...です。

ストレスプロファイル (Psychophysiological Stress Profile: PSP) とは

自律神経系など、身体の調整を行っていてストレスなどによって変化しやすい心身の調整機能を精神生理学的に調べる方法です。

ストレスに対する自律神経系などの身体の反応には、ある程度安定したプロフィールがあるとされています。PSPでは日常生活で体験するのに近いメンタルワークストレスによって、自律神経系や筋緊張などの生理的指標がどのように変化するかを調べ、その反応の仕方や自分で感じる身体の感覚との関係などを調べます。

例えば典型的には、ストレスによって、スキンコンダクタンス(情動性発汗)は上昇し、末梢の血管は収縮して皮膚温は低下し、心拍数は上昇し、額などの筋電位は上昇します。

しかしその反応の仕方が、ある指標では過剰であったり、反応が鈍かったり、ストレス前の方がかえって緊張が高かったり、ストレス後の回復が遅れたりします。また、情動性の指標は反応が高いけど、血管の反応は低いなど、指標によって反応のパターンが違ってくることもあります。そのとき、その人に特有の反応のパターンを評価するのがPSPです。

測定する指標  →バイオフィードバックで用いる指標
(1) 筋電図 (surface electromyogram: SEMG):
          筋肉の緊張弛緩をみる。身体的な緊張・リラックスの指標。
(2) 皮膚電気活動 (electrodermal activity: EDA):
          情動性発汗を反映。精神的な緊張・リラックスなどの指標。
(3) 皮膚温 (skin temperature: TEMP):
          末梢の血液循環を反映する。
(4) 容積脈波 (blood volume pulse: BVP):
          末梢血管の収縮拡張や脈拍数をみる。
(5) 呼吸 (respiration: RESP):
          呼吸のパターン、深さ、速さなどをみる。
(6) 心電図 (electrocardiogram: ECG):
          心臓の働きをみる。
 → heart rate variability: HRV: 心拍変動:
          交感神経と副交感神経の緊張やバランスを評価する。
(7) 脳波 (electroencephalogram: EEG):
          脳の機能的な状態をみる。

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手順
1)上記の信号を測定しながらしばらく安静にした後、簡単な問題を行ってもらい、その後また安静にします。過呼吸テストを加えることもあります。
2) 前後にPOMSや自覚的スコア、身体感覚増幅尺度などの質問紙を行います。
3) 自律訓練法などを行っている場合は、測定しながら引き続いて行ってもらい、そのときの変化をみます。

目的と意義
(1) 精神生理学的な評価(自律神経機能及び筋緊張の評価)。
自律神経系や筋緊張を反映する指標のストレスによる反応性を評価します。
また、自覚的な身体感覚や気分との関連性を併せて検討します。それによって、心身相関などの病態を把握する材料とします。

(2) 心身相関の気づきや理解を促す。
ストレスによる生理的指標の変化をフィードバックすることで、心身相関の理解や気づきのきっかけになります。

(3) 最適なリラクセーションの方法の選択。
いくつかあるリラクセーション法・行動医学的アプローチの中で、どれが一番合っているかを推定します。

(4) 自律訓練法・呼吸法などの行動療法の効果判定。
すでに自律訓練法や呼吸法などを行っている場合は、その際の指標の変化を調べ、効果を評価します。それをフィードバックすることで、モチベーションや理解を高めます。

(5) バイオフィードバックの為の評価。
バイオフィードバックでは、上記の指標を自分でコントロールして、心身をよりよい状態に持っていくことを目指しますが(後述)、どのようなバイオフィードバックを行うかをPSPで評価します。

(6) 心理的効果(外在化と行動変容)
PSPを各治療の節目で用いることで、治療者患者間で共有できる客観的な指標が得られ、外在化や行動変容などの心理的効果をもたらします。

「身体を扱う」ということと「心を扱う」ということの関係について触れてみます。

現代の西洋医学では「心」は「精神」として分離し、「身体」とは別に扱うのが当然とされてきました。心理療法では「心」を扱うのが一般的です。

しかし、西洋医学のような分割主義では本質をとらえきれないことから、人間を全体としてとらえようとする動きがいくつか出てきました。心身医学や統合医療、ナラティブ・ベイスト・メディスンなどです。
いずれも心も身体も含めた全体から捉えようとするものです。

東洋では古来「心身一如」という概念があり、心と身体は切っても切り離せない、表裏一体のものであるとされてきました。わが国では「身(み)」という言葉があり、心や身体という概念を超えた統合体としてとらえられています。一方、西洋では、心と身体を分けた上で、その関係性を見ようとする発想が根強いです。

我が国にユング心理学を紹介した河合隼雄は、いくつかの文献で物理学者のデイビッド・ボームの比喩を引用して、心と身体の一体性について述べています。
「透明な四壁で囲まれた水槽の中を、一匹の魚が遊泳しているとする。このとき互いに直角になる二つの側面からその魚の姿を撮影し、それを二枚のスクリーンに映写したときの、二枚のスクリーン上の二つの映像が心と身体であり、魚が人間の実体である。」

二つのスクリーンの映像は活動する実体のある面を映し出していて、それが「心」と「身体」の状態であり、活動する実体はスクリーン上の二つの内容より高次元のものであって、この存在が人間存在である、と述べています。

すなわち、心と身体の関係性は、別個のものが互いに関係し合うというものではなく、一つの実体のある側面を投影したものということです。このように考えると、「心」と「身体」は、本来分けられるものではないことが分かります。

従って、意識するしないにかかわらず、「身体を扱う」ということは「心を扱う」ことになり、「心を扱う」ということは「身体を扱う」ことになるのです。

例えば、医師が身体的な診察を行うとき、聴診器を当ててもらうだけで安心した感じがする、という経験のある人もあるでしょう。身体の力を抜くリラクセーションによって、心の壁も取れて、いろんなことが話しやすくなる、ということもよくあります。

心理療法では「心」を扱いますが、その「身体」に及ぼす影響は無視できません。心理的な状況が変化したときに、倦怠感や動悸、胃痛などの身体症状が改善することはよくあることです。

このように、「身体を扱う」ままが「心を扱う」ことになり、「心を扱う」ままが「身体を扱う」ことになる、という観点を持ちながら、心身を扱うということが重要です。

一つの例として筋肉の活動を電気信号で表した「筋電図」を考えてみます。
筋肉を緊張させると、筋肉の活動は大きくなり、筋電位が高くなります。この緊張は自分である程度は"感じる"ことができます。
もし筋肉をリラックスさせたいと思ったらこの筋肉の活動レベルを落せばよいことになります。しかし実際には、なかなか思うようにはリラックスできないことも多いのです。

emg1.gif弛緩      緊張          弛緩 emg2.gif


つまり、
◆私たちの感じる緊張度と実際の筋電位は解離していることも多い。
◆緊張度を思うようにコントロールできないことも多い。

のがふつうです。
そのために知らず知らずのうちに過緊張状態になって、それが習慣化したために、慢性的な痛みを感じたり(慢性疼痛、筋緊張型頭痛など)、思うように動かなくなったりすることがあります(書痙、斜頸など)。

バイオフィードバックを用いることにより、この筋電位と実際に感じている緊張度とを近づけることができます。言い換えれば筋緊張のセルフコントロールが可能になります。

筋肉の緊張からくる肩こりや緊張型頭痛、書痙などのケースでは、
1)症状は自覚しているが、筋肉の緊張に気づいていない
2)緊張に気づいてはいるが、緊張を取ることができない
という2つの場合があります。

1)の場合は、「知らず知らずのうちに緊張してしまっている」という場合で、その自覚に乏しいわけです。知らず知らずのうちに身体のある部分に力が入っていることは意外に多いものです。そのような場合は、それに気づくことが第一歩です。

2)の場合は、「なかなか思うように緊張が取れない「力が抜けない」という場合で、これも実際によくあるケースです。この場合は、力の抜き方が分からない、どうやってリラックスすればよいかわからない、ということですから、そのやり方を知って、学習することが第一歩となります。

このいずれにも、バイオフィードバックが役に立ちます。
まず、筋電図をリアルタイムでフィードバックし、力を入れたり抜いたりしたときの変化がわかるようにします。ここで、筋電位が上がったり下がったりしたときの身体の感覚の違いに注意するようにします。

次に、筋電位を思うようにコントロールできるよう練習します。これには筋弛緩法などの特定の方法を用いる場合と、特に方法は用いず、自由に行う場合とがあります。

いずれにしても、初めはなかなかコントロールが思うようにできませんが、重ねるうちにコントロールが可能になります。生理学的には、脳の中に今までに無かった新たな回路を作っていく、ということもできます。そして、最終的にはフィードバックはなくても身体の状態を知って調整できるようになることを目指します。

 

からだの声をきく、具体的なアプローチの方法です。
これには決まった答えはなく、日々模索しているところですが、現在のところは次のような方法を適宜組み合わせて行っています。

(1) 何らかの身体からのアプローチ(主にリラクセーション法)を行う。
 自律訓練法、リラックス呼吸法、筋弛緩法、場合によっては催眠など。
 もし治療者が何らかの代替療法を行える場合は、それを用いることもあります。

(2) バイオフィードバックを用いる。
 身体で起こっている変化を眼に見える形にします。
 下記の例を参照して下さい。

(3) 心身医学の枠組み
 枠組みとして、治療者クライエントの関係も考慮した、心身医学的アプローチの枠組みを用います。

(4) (1)-(3)のアプローチで出てきたことをコンセプトに基づいて扱う
 どこまで扱うかは治療者の力量や枠組みによって変わります。


例)バイオフィードバックを中心に行う場合(他の場合でもかなり共通するプロセスです)。

1) バイオフィードバックによって、普段は気づかない、刻々と変化するからだの状態をとらえます。フィードバックされた身体の状態と、自分で感じるからだの感覚との間の乖離に気づくことが手掛かりになって、「身体との対話」が可能になります。
また感情によって動く指標を用いる場合は、一種の外在化の形になります。

2) 身体との対話を通して身体感覚や心身相関など、いろいろな気づきが深まり、それを治療者と共有します。そのような気づきは、やがて症状の意味に気づくことにつながり、自己の統合がなされて本来の自分を取り戻します。

3) 感情の外在化を行った場合は、自己の感情に気づき、それを治療者と共有することでカタルシスなどの心理的プロセスが起こります。
 また、身体の状態がどのような感情と結びついているかを確認する中で、症状の意味(身体が伝えてくれていること)に気づき、自己の統合へと進みます。

心身症や機能的な身体疾患では、自分の感情に気づきにくくなったり、からだの感覚に気づきにくくなったりすることが、病態に関わっていると言われています。

アレキシサイミア(Alexithymia; 失感情症)は感情の気づきや表現が困難で、内面への気づきに乏しい状態です。
アレキシソミア(Alexisomia; 失体感症)は身体感覚の気づきが低下した状態です。

心身医学の草分けである故池見ら(1986)は
「アレキシサイミアのケースでは感情だけでなく、身体感覚の気づきも低下していることが多い」
と述べ、その状態をアレキシソミアと呼びました。
一方で、身体の感覚が過敏になるという報告も多くあります。

現代社会における生活の中では、ストレス、アンバランスな生活、過度の適応、行動の歪み、などからさまざまな乖離やバランスの崩れなどが起こってきます。例えば、感情と知性のコミュニケーションがうまくいかない、身体と知性のバランスが悪くなる、などです。慢性的なストレスにさらされた状況では、感情や身体の気づきを鈍くすることで自分を守る(=防衛)ということもあります。

感情の気づきや表現が低下した状態では、本能的なレベルの情動が感情として発散されないために抑圧され、抑圧された感情が身体の症状となって表れるということが考えられます。それが、身体症状の過敏性という形になることもあります。

そのようなケースでは前述のように、身体感覚の気づきも低下していることが多く、身体の声に気づかないことが症状の持続因子になっていることがあります。

このような状態では、自分のからだの感覚や感情に気づいていくというプロセスや、その意味を知ることが重要です。
言い換えれば、無視していた、あるいは、聞かないようにしていた「身体の声」「心の声」に耳を傾け、心や身体とのコミュニケーションを回復するプロセスです。そして、身体の症状の持つ意味(からだが伝えていてくれること)を知ることが重要です。

「身体の声」が聞けるようになると「心の声」にも気づきやすくなります。その第一歩として「身体の声」に耳を傾けるところから入るのが「からだ・気づき・アプローチ」です。

例えばバイオフィードバックでは、普段は気づかない、刻々と変化するからだの状態をとらえます。フィードバックされた身体の状態と、自分で感じるからだの感覚との間の乖離に気づくことが手掛かりになって、「身体との対話」が可能になります。バイオフィードバックは、いわば心と身体をつなぐ「架け橋」です。

「身体との対話」を通して、感情との対話や心との対話もできるようになり、心身の本来の姿を取り戻していきます。

心と身体の関係

英語では、"mind-body interaction" などと言います。
専門的な言葉では「心身相関」です。

心身相関は、心療内科の重要な概念の一つで、これだけで何冊かの本ができるくらいの内容なので、とても全てを述べることはできませんが、その中のいくつかについて述べたいと思います。

心と身体の間に、密接不離な関係があることは、今日では誰もが認めるところです。
ジョン・A・シンドラーというアメリカの医師が書いた「こころと身体の法則」という有名な本があり、最近その日本語訳が出ました。

その中には自律神経系や内分泌系(ホルモン)を通して、感情や悩みが如何に身体に影響を及ぼすかが、分かりやすく述べられているので、興味のある方は参考にして下さい。
その中でシンドラーは「身体的変化を起こさない感情はありません」と述べているほど、心と身体は密接な関係にあります。

心と身体を結ぶルートとして上述の自律神経系と内分泌系に加えて、今日では免疫系が言われています。
それぞれについて、さまざまな研究がなされています。

その中の自律神経系については、「自律神経失調症」などと言われたりもするので、少しは馴染みがあるかもしれません。これについては、次回以降に取り上げたいと思います。

内分泌系は身体のさまざまな機能を調整しているホルモンを分泌する系で、この異常としては、甲状腺機能亢進症(バセドー病)や低下症(橋本病)などが比較的知られた疾患です。ストレスとの関連では、コルチゾールが知られて
います。

免疫系は身体の防御システムで、ストレスや抑うつによって、この防御機能が弱くなり、病気に対する抵抗が弱まって病気になりやすくなる、といったことが知られています。


「ストレスが原因で...」「心因性...」?

さて、この心と身体の関係について、よく「ストレスが原因で...」などと言われたり、「心因性...」と言われたりします。「ストレスが原因で胃潰瘍になった」とか「心因性頭痛」「この症状は心因性のもの」など。

このような言い方の背景にあるのは、ストレスや心が原因で、結果として病気や身体的不調を招くといった直線的な考え方ですが、心と身体の関係はそんなに単純なものではありません。

たとえば、「仕事のストレスが原因で胃潰瘍になった」と言う場合。
この場合、胃潰瘍による不快な症状がストレスとなって仕事がうまくいっていない、ということも考えられます。同じ仕事のストレスがあっても、胃潰瘍にならない人もいます。

つまり、もともとの体質的なものや、食事の不摂生、生活習慣なども影響している可能性があります。また、その人の行動パターン(完璧主義など)も影響しているかもしれません。

仕事のストレスそのものより、仕事が忙しくて食生活が不規則になっていたり、睡眠不足が続いていた影響が出た可能性もあります。仕事のときにコーヒーを飲み過ぎて、胃壁が荒らされたのかもしれません。

このように、「仕事のストレス」→「胃潰瘍」と1対1で単純に結ばれるものでもないし、一方通行でもないということです。このような直線的なモデルに対して、相互作用や多要因を考慮したモデルを「円環的モデル」などと言われます。

すなわち、上に述べたような生活習慣、食生活、ストレス、仕事、行動パターンなどさまざまな要因と胃潰瘍という身体的病態とは直線的な関係にあるのではなく、それぞれが互いに複雑にからみあって一つのシステムを形成しているのです。

そして、それぞれの要素において相互作用があり、さらに、全体があいまって生じてくる作用もあります。だから、その中の一つだけを切り出して論じることはできないということです。

上の例だと、様々な因子の中の「仕事のストレス」だけを取り出して、仕事のストレスだけがなければよいかというと、そうではありません。仕事のストレスがなくなったらやる気もなくなって、うつ病などの別の病気を招くことも考えられます。

このような場合は、全体をみながら一つ一つの要素もみていく、というアプローチが必要です。
全体のシステムをよい方向に持っていくという視点が重要になるのです。

「心療内科とは」で心身医学というのは...
・病気を身体だけでなく、心理面、社会面をも含めて、
・それらを分けずに、
・それらの関係性を評価しながら、
・総合的・統合的にみていこうとする医学
ということができると述べましたが、この「関係性を評価しながら、総合的・統合的に」というのは上記のことを言っているのです。

「ストレスが原因」というような単純なものではないということがお分かり頂けたでしょうか。

2024年4月

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