心療内科は心身医学を内科の領域において実践する診療科です。
心身医学というのは...
・病気を身体だけでなく、心理面、社会面をも含めて、
・それらを分けずに、
・それらの関係性を評価しながら、
・総合的・統合的にみていこうとする医学
ということができます。
分かりやすく言えば、
「こころとからだ、そして、その人をとりまく環境等も考慮して、それぞれの要素を分けずに、統合的によくしていこうとする医学」
と言えるでしょう。
心療内科が主な対象とするのは心身症です。
心身症の定義は次のようになっています。
(日本心身医学会, 1991)
「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的、ないし
機能的障害が認められる病態をいう。
ただし、神経症やうつ病など他の精神障害に伴う身体症状は除外する。」
少し難しい定義ですね。
まず、「器質的障害」というのは胃炎や気管支炎などの「炎症」や癌をはじめとする「腫瘍」など、物理的(物質的)に異常が生じる障害のことです。これはレントゲンやカメラなどの検査でとらえられることがほとんどです。
もう一つの「機能的障害」というのは、器質的な異常がなく、従ってレントゲンやカメラなどの検査をしても異常が見つからないけど、その動きや働き(機能)が障害されているものを言います。
例えば消化管でいうと、癌や炎症はないけど腸の動きに異常があり、その為に腹痛や便秘・下痢などの症状が出る......"過敏性腸症候群"などがこれにあたります。
このいずれにも心理・社会的因子が関与することがありますが、特に二つ目の「機能的障害」に関与することが多いです。(これらの関係を「心身相関」と言います。)器質的・機能的障害に心理・社会的因子が密接に関与している病態を心身症として扱うことになります。
よく、「ストレスが関係している」などと言われるのは、心理的因子が関与しているということになります。ストレスだけでなく、幼少時の体験や性格、社会的スキルや対処方法に問題がある場合も同じです。
社会的因子というのは、会社での労働環境が劣悪であるとか、家族関係に問題があるとか、災害のトラウマなどを指しますが、心理的因子とはっきり区別することはできません。
これらは多かれ少なかれ、病気に関与しているものなのですが、その割合が大きく、その面を考慮した方が適切に治療できる場合(もっといえば考慮しないとどうしようもない場合)に「心身症」として扱うことになるのです。
ただし、心理・社会的因子と病気との関連は、単に「心が原因で病気が生じる」というような直線的なものとは限らないという点に注意する必要があります。
神経症やうつ病などの精神障害でも身体症状が出ることがありますが、これは「除外する」となっています。それは精神科の領域になるからです。心身症はあくまで、「身体疾患の中で」とあるように、身体疾患の一つなのです。
以上が心身症の定義です。
心身医学がでてきた背景
日本の医学は西洋医学に基づくものですが、それは身体を各部分に分けて、それぞれの専門家がそれぞれのパーツを科学的にアプローチしていこうとするものです。
たとえば、内科の中でも狭心症などの心臓関係は「循環器内科」、胃潰瘍・胃炎などの内臓関係は「消化器内科」、喘息などの呼吸器関連は「呼吸器内科」、ホルモンの異常などによるものは「内分泌内科」、といった具合です。これも非常に大事なことで、心身医学はこれを否定するものでは決してありません。
しかし、病態が複雑化し、慢性的病態や生活習慣病、機能的病態などが増えてきて、そのような捉え方だけでは対応できないものが増えてきたのです。そこで、そのような病態により適切に対応できる医学が必要となり、心身医学が出てきたのです。
上に述べたような心身症を心身医学的に扱うのが心療内科である、ということです。
もう一度、分かりやすくまとめて言えば、
「こころとからだ、そして、その人をとりまく環境等も考慮して、それぞれの要素を分けずに統合的によくしていこうとする医学(医療)」
が心療内科であり心身医学である、ということになります。