唄を忘れた金糸雀(かなりや)は
後の山に棄てましよか
いえいえ それはなりませぬ
唄を忘れた金糸雀は
背戸の小藪に埋(い)けましょか
いえいえ それはなりませぬ
唄を忘れた金糸雀は
柳の鞭でぶちましよか
いえいえ それはかわいそう
唄を忘れた金糸雀は
象牙(ぞうげ)の船に銀の櫂(かい)
月夜の海に浮べれば
忘れた唄をおもいだす
(「唄を忘れたカナリヤ」西條八十「砂金」より)
あなたにとっての「唄」は何でしょう。
その人が最もその人らしく輝けるもの?
それを忘れたカナリヤは価値がないのでしょうか。いえいえそんなことはありません。
唄を忘れた金糸雀も、月夜の海に浮かべれば、忘れた唄を思い出すように、忘れていた自分らしさは取り戻すことができる。
カナリヤといえども唄を忘れてしまうことがある。あまりの難度の波がうち寄せたとき、人は自分を見失ってしまうかもしれない。
それでも、象牙の船に銀の櫂、月夜の海に浮べれば、忘れた唄を思い出す。自分らしさを取り戻すことができる。
唄を思い出すのに特別なものは要らない。ただ、月夜の海があればいい。ちょっとしたことが「象牙の船」になり、「銀の櫂」になり、そして「月夜の海」になる。