01) 心療内科と心身医学: 2009年12月アーカイブ

心と身体をつなぐルートの中でも比較的馴染みがあると思われる自律神経系について、心身医学の立場から述べたいと思います。この自律神経系については生理学的な立場からいろいろな専門的内容があると思いますが、ここでは細かいことは省略させて頂きます。

自律神経の「自律」というのは、運動神経などのように意識的に働かせることができるものではなく、状態に応じて「自動的に」調節される神経系ということです。

そして自律神経には交感神経と副交感神経とがあります。
交感神経は、身体を活動、緊張、攻撃などの方向に向かわせる神経で、手に汗を握ったようなときにより働いている神経です。副交感神経は内蔵の働きを高めたり、身体を休ませる方向に向かわせる神経です。

例えば、自律神経によって調節されるものの一つに心拍数があります。
普通は1分間に約60~80回くらいの心拍がありますが、運動をするとそれが100から150くらいに増えます。運動以外でも、例えば人前で緊張したりすると「ドキドキする」などと言いますが、そのようなときには心拍数が安静時よりも上がっているのが普通です。

そのようなときには交感神経の緊張が副交感神経の緊張を上回った状態にあると考えられます。ぐっすりと眠っているときには逆に副交感神経優位となり、その人の変動の中で最も低い心拍数に近い状態になっているでしょう。

このように、自律神経の働きによって、身体の状態や周囲の状況に反応して心拍数は増えたり減ったりします。例えば運動をしたときには身体に多くの血液を送る必要があるので、自動的に心拍数が上がります。「これから運動をするから心拍数を上げておこう」などと、意識的に上げるものではないし、通常はできるものでもありません。

このように本来自律神経というのは意識しないでも勝手に調整されて、身体をより適切な状態に持っていこうとしてくれる、言わばありがたい神経なのです。
これをいちいち自分の意識で調整していては大変です。まして、眠っている間に調整などできるものではありません。

しかし、勝手にしてしまうことで、困ったことになることがあります。例えば「慢性疼痛」という病態があります。これは、何らかのきっかけで疼痛が生じ、それが慢性化して、通常の内科、整形外科、麻酔科などの治療でも改善が難しくなった病態を言います。

この慢性疼痛では疼痛のある部位を中心とした筋肉の緊張が見られ、末梢の血流が悪くなり、疲労物質などが滞り、皮膚温も低下してさらに疼痛が増し、それによってさらに筋緊張や血流の低下が生じる、という悪循環に陥っていることが多いのですが、この悪循環に交感神経の緊張が関与していることがあります。

痛いとどうしてもリラックスはできませんから、交感神経は緊張しがちで、思考もネガティブになってしまいます。ネガティブな思考は周囲との関係も悪化させますから交感神経の緊張が生じやすくなります。交感神経が緊張すると筋肉の緊張や末梢の血管の収縮による血流の低下や皮膚温の低下を引き起こし、上の悪循環を加速させるのです。

本来身体をより適切な状態に持っていってくれるはずの自律神経が、痛みの持続という期待しない状態に関与してしまっているのです。
このような状態では何とか意識的にでも交感神経の緊張を取り除く方向に持っていくことが必用になります。そのような具体的な方法としてリラクセーションバイオフィードバックなどがあります。

本来自動的に調整される自律神経を、半ば意識的にコントロールすることで、身体の状態をより適切な状態に保つことができ、本来のバランスを取り戻すことにつながります。

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