2011年6月アーカイブ

近年、社会や医療構造の変化などに伴って、疾患の構造も変化しつつあります。身体症状が続くのに、通常の医学的検査で対応した異常がみつからず、医学的アプローチが奏功しにくい疾患が増えてきました。

欧米諸国でも同様の問題があり、それらの疾患は機能性身体症候群(functional somatic syndrome; FSS)と呼ばれています。FSSは「身体症状の訴え、苦痛、障害の程度が、個々の疾患に特異的な構造や機能によって説明できる障害の程度に比べて大きいという特徴を持つ一連の疾患群」と定義されています。

例えば、胃痛や胸焼けが続くので病院で検査をしたけども、胃カメラでは異常がないと言われた。しかし、症状は依然として続き、薬で一時的に多少はよくなるものの、またすぐに症状がでてくる。どこへ行っても異常がない、気の問題だ、などと言われる。

このようなケースは、確かに胃壁に潰瘍や胃炎があるなど、器質的な異常はないのですが、胃の機能(はたらき)に問題があり、胃炎などと同じ症状が出てきます。これは、機能性ディスペプシアとよばれているものです。

FSSは、この機能性ディスペプシアの他に、過敏性腸症候群、線維筋痛症、慢性疲労症候群などをコア疾患として、さまざまな領域にわたって機能的な異常が表れる疾患群のことを言います。

これらは、互いに合併したり、症状の移動がみられたりして、共通の問題点や特徴があります。そのため、一つの症候群として捉えた方がよいと考えられてきました。

FSSの患者さんは、医学的検査を繰返し受け、治療関係がこじれやすく、医療機関をワンダリングするなど、その対応にはマンパワーや医療経済的観点からも問題が大きく、FSSに対するより適切な病態把握と対応が求められています。

身体症状が持続するが対応する医学的所見に乏しく、主観的訴えと客観的評価の乖離が大きい疾患群は、機能性身体症候群(functional somatic syndrome; FSS)と呼ばれている。FSSは各分野にまたがり、通常の治療が奏功せず、無用な検査等による医療経済的損失などの問題から病態の解明が求められている。


我々はFSSの自律神経機能の異常とストレスの関与に着目し、精神生理学的ストレスプロファイル(ストレスに対する自律神経系機能に関連する生理学的指標の反応と心理指標をみるもの)をFSS患者に対して行い、その特徴について検討してきた。


FSS群における精神生理学的ストレス反応は、健常対照群と比べて低く、外的状況に適切に対応しにくい側面を捉えたと考えられた。また、クラスター分析では、その中に低反応群と高反応群の少くとも2群が存在し、群分けは疾患分類に依存しなかった。さらに、FSSにおいては自覚的な緊張感が高く、客観的評価と自覚的評価の関係性が健常群と異なっていた。また、ストレス負荷前の心拍変動も低下していた。


これら一連の結果は、FSSの病態解明への手がかりになり、医療現場に与える影響が大きい。また、ストレスプロファイルの手法は、ますます増加すると思われるストレス関連疾患など、従来の医学的評価が困難な病態の評価への応用の可能性がある。

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