The
Suicide
MIND-BODY THINKING. COM
−こころ・と・からだ・の対話−
以下 朝日”Aera"より引用
救急外来の精神科ルポ
自殺をする人は、実は死にたくて死ぬのではないのかもしれない。 未遂で助かった人の多くは、自分が生きていることに感謝するという。 マニュアルに従う人も失敗する例が多い。最前線ではさまざまなことが見える。 ●救急外来 救急外来を知らせるベルは昼過ぎから1度も鳴らなかった。神奈川県相模原市の北里大学病院救命救急センターで、久々の静かな1日が暮れようとしている。 このセンターには、最も重い症状の患者が運び込まれ、24時間態勢の治療を受けている。集中治療室を出てからもフォローする専用の入院施設も備えている。 50床のうち、常時2、3人の自殺未遂者が入院している。ガラスで仕切られた個室の1つに、顔と腕が包帯ですっぽり覆われた患者が横たわっていた。 その人は自宅で頭からシンナーをかぶって火をつけた。以来ずっと寝たきりだが、意識ははっきりしている。担当の医師に、彼はたずねた。 「火傷したとき、消防が消火活動するため自宅の鍵をあけたままここへ運ばれちゃったけど、印鑑や通帳や現金はどうなりましたか。合い鍵は自室にしかないけど、大家さん、きちんと管理してくれてるんでしょうか」 語りは続く。 「こういう所で生活をしているときはいい。1人になっちゃうとダメなんです」 「基本的に、寂しいんだよね。」 「そうです。昔は友達とかいっぱいいたのに、だんだんいなくなっちゃって」 鼻にチューブが差し込まれているため声に抑揚が乏しく、表情の変化は推し量りようもない。だが彼は涙ぐんでいる。 「1人のとき、寂しくて酒を飲んじゃうんですよ。肝臓が気持ち悪くなって、吐くと、自分でも訳がわかんなくなっちゃうんですよ。こんなことをずーっと繰り返してるなら、死んじゃったほうがいいやって。子どもたちのために一生懸命頑張んなきゃと思ってたのに」 「立ち直らなきゃ。でも今回ちょっと入院、長引きそうだよ。皮膚移植をしないといけないし。」 「タバコ、吸えるようになりますか。タバコ買うにも何買うにも、お金全部置いてきちゃった」 担当医は部屋の鍵の確認を約束し、その患者を後にした。 ●性格は病院で直せない 上條さんは以前、切腹した初老男性を診たことがある。 職場での待遇が不満で、腹部を包丁で思いきり切り裂いたらしい。だが腹筋の厚みに遮られて刃は内臓までは達しなかった。入院して数日後、どこまで包丁が入ったか、痛みは感じなかったなどと、他人事のように淡々と説明したという。 ――どう、気分は? 「最高でっスよ」 たわいないやりとりから、診断の基礎となるデータを拾っていく。かけた言葉に、ぎこちない笑顔を返すが、視線は不安そうにさまよう。1人になるとそわそわして落ち着かない。うつ病の疑いがあったという。 たとえば、まじめで家族思いで仕事熱心な中高年なら、うつ病を疑ってみる。患者のいう自殺の動機も、はたからみれば命と引き換えにするほどの重大事とは思えない。背景に潜在的な心の問題があるかもしれない。うつ病なら休養をとり、治療すれば治る。 一方、性格の問題から自殺を図る人もいる。若い女性に多い。この人たちは、飛び降りや首吊りでなく、薬や手首切りを選ぶ傾向がある。命をとりとめても、周囲から見捨てられたと思うと自殺未遂を繰り返す。「死にたい」「助けられたい」の相反する感情が心の中でせめぎあっているのだ。 「医者に病気は治せても、性格を変えることはできない。こっちのほうが、本当はやっかいなんです」 このセンターにスタッフとして常駐する医師20人のうち、精神科医は2人。精神科医の常駐しているセンターは全国ではまだ少ない。運び込まれた患者に自分で処置室で胃洗浄も施す。精神科医はいう。 「精神科医は普通、切ったはったが苦手で、自殺でも生々しい修羅場を見ずに診断を下す。でも精神科医だって自殺直後の患者を見ることが大切だし、その方が予後もいいとわかってきた」 直後の患者の心はホットだ。でも時間の経過とともに冷えて固まってしまう。熱いうちが、本人とも家族とも信頼関係を結ぶチャンスでもある。 「手首を切った患者さんが、傷が治ってから化粧してワンピース着て精神科に来ても、へえっ、アナタなぜ自殺なんかしたの、もう2度とやっちゃダメだよ、で終わってしまう。血まみれで髪も振り乱している時から患者さんを知ってるから関係もつくれる」 自殺未遂者が再び自殺を図る率は10%といわれる。このセンターでは約5.5%だ。 「この数日は忙しかった。木の芽時かなあって話しあっていたんですよ」 冬はコタツにあたって丸くなりながら薬を飲む。春めいてくると外に出ようという気になるのか、飛び降りが増える。きちんと統計をとったわけではないが、堤さんらの観察では、自殺にも季節的な変動があるという。うつの人の場合、取り残されたよう分にさせてしまうので「励ましは禁物」なのだが、芽吹きの季節は自然界に励まされてしまうものらしい。 自殺には流行があることは昔からよく知られている。メディアの発達した現代では大きなブームになり、さらに自殺を呼ぶことがある。最近ではマニュアル本のヒット、そしていじめによる自殺予告が話題になった。 ●6人中5人助かる 自殺を図った室内から、市販薬の空き箱が大量に発見された。コツコツと買い集めたものだった。 94年7月に『完全自殺マニュアル』(太田出版)が出て以来、市販薬「リスロンS」を飲んで運ばれて来る若者が相次いだ。上條さんはこれに注目し、患者の分析を試みた。 『完全自殺マニュアル』は、最も理想的な死に方として「リスロンS」を紹介している。薬局を何軒か回れば致死量を容易に買い集められること、吐き出さないためにはすりつぶして食べ物と一緒に飲むなど、細かく伝授している。しかし実際は、その通り致死量を飲んでも6人中5人は助かった。発見が早かったためだ。 そして同じ薬物による自殺でも、致死量を飲んだ群と、致死量に達しなかった群とに分けると、両者の間で自殺を図る動機や原因が違っていることがわかった。 致死量に達しない群は若い女性が多い。自殺を図ることで相手を振り向かせ、助けてもらうことを期待しての行動だった。 一方、致死量を飲んだ人全員が、自殺を図ったのは初めて。精神科に行ったこともない。だが、分裂病圏に属する人たちだ。 「分裂病の人は、いつも死にたい死にたいという思いだけはあっても、自分から主体的に行動を起こそうとしないが、言われた通り実行することはできる。『完全自殺マニュアル』は、そんな彼らに格好の書だった」 自殺が本当に身近になったと精神科医は感じている。 ●生きろという資格なし 若者にとって、自殺はサブカルチャーのひとつなのかもしれない。 2月11日、「自殺だヨ、全員集合」という奇妙なイベントが東京・渋谷であった。 告知ポスターには「自殺未遂者、切腹常習者、遺書持参の予告者」は割引料金になると記されていた。『完全自殺マニュアル』著者の鶴見斉さんがパネリストになり、「自殺ドキュメント映画」「自殺レクチャー」「13回自殺未遂の元AV女優インタビュー」など、映画館では絶対上映されないようなビデオを見ながら語りあうトークショー。 報道陣も含め、約90人が学校の教室ほどのスペースにつめかけた。 冒頭にいきなり、若い女性が会場前方に躍り出て切腹するパフォーマンスが演じられた。滴る血糊とリアルな演技に、なんの予告もされていなかった観客は騒然となった。が、女性を止めようとした人は1人もいなかった。 悪趣味ともとられかねない仕掛け。主催者のライター今一生さん(30)はそのねらいをこう語る。 「会場には親たちやマスコミもいたのに、動けなかった。僕たちには死のうとする人の生を請け負うことなんて本当はできない。軽々しく『生きろ』と言う資格はないんです。それをまず共通認識にして、議論を始めたかった」 自殺者を救う最前線にいる精神科医でも、自殺を全否定しているわけではない。 だが、周囲のだれがみても明らかに納得できる理由があり致死率の高い手段で自殺を図ったケースであっても、助かった人たちの9割以上は「助かってよかった」と感謝するのだという。 「僕はね、『完全自殺マニュアル』の著者と対決したいんだ」 精神科医はそう言った。 以上引用 ◆最近自殺は大きな社会問題となっている。 自殺をするのは苦しいからである。 しかし、死ねば楽になれるという考えは正しいのだろうか。 人は「なぜ生きるのか」この問題が根底にある。 |